離婚前夜、私が「月17万円」の負債を聖域に変えた理由

著者情報
執筆者:金子裕二(現役大学教員・カウンセラー)
25年以上の教育・研究実績(論文60本超)に基づき、
客観的な視点で執筆しています。

この記事では、20年前の私の決断について、少し踏み込んだ話をさせてください。

全体像(「心の平穏」を求めた20年の軌跡|意図せず資産形成に繋がった住まいの記録)では触れきれなかった、当時の私の「切迫した内面」と、なぜあのような極端な選択をしたのかという心理的背景です。

資産価値よりも「自分の命」を守るための選択

当時の私を突き動かしていたのは、家を「買う」喜びではなく、今の家から「出る」切実さでした。

元妻との関係が限界に達し、家庭内での私の居場所は、怒鳴り声に怯えるだけのわずかなスペースしかありませんでした。

「ここで暮らし続けたら、自分の心が壊れてしまう」

実際職場のパワハラ、モラハラで、私の心は壊れかけていました。

その恐怖は、ローンの返済リスクをはるかに凌駕していました。

私が選んだのは、不動産投資でも資産形成でもなく、「精神的な生存権」を確保するためのシェルターだったのです。

恐怖をねじ伏せた「17万円」の痛み

薄暗い部屋で月17万円のローン書類を手に持ち、困惑と決断の表情を浮かべる50代男性(金子裕二)。手前には『現在(現在バイアス)』と『未来』の心理的価値の差を示すノートが置かれ、背景には静寂を象徴する新築戸建てが窓越しに見えている。

住宅ローンの返済額は、固定資産税を含めると月17万円。

今の私が聞けば「正気か?」と問い返すような金額です。

心理学の研究職としての安定した収入はありましたが、それでも生活を圧迫するのは目に見えていました。

しかし、不思議なことに、その「17万円」という具体的な数字は、私に「自分の力で環境をコントロールできている」という万能感さえ与えてくれました。

「借金をしてでも、私はここから逃げ切れる」。

この強烈な動機が、正常なリスク判断を麻痺させていたのです。

「今」しか見えなくなる脳の仕組み

この状態を、行動経済学では「現在バイアス」と呼びます。

将来、定年後にローンの残債に苦しむ可能性(将来の痛み)よりも、今夜、静かな部屋で眠れること(現在の報酬)を、脳が何十倍も価値があるものと誤認してしまう現象です。

さらに、ここに「サンクコスト(埋没費用)の呪縛」も重なっていたかもしれません。

「これまでこの結婚生活に耐えてきた時間を無駄にしたくない。

新しい家さえ買えば、すべてをリセットできる」という、今思えば少し危うい救済願望があったのです。

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【心理学コラム】「耐えた時間を無駄にしたくない」という呪縛|サンクコストが投資と人生を狂わせる理由(準備中)

「失った時間」を取り戻そうとする時、人は最大の誤断を犯す。私が陥った心理的落とし穴の解説。

離婚と同時に手に入れた「不完全な静寂」

実際に引っ越した新居は、ツー・バイ・フォー工法で音がよく響く、完璧とは言えないものでした。

それでも、誰にも責められずに眠れる夜が手に入った時、私は「この負債は正解だった」と自分を説得しました。

結果として、この「逃げの判断」が10年後に300万円という利益を運んできてくれたのは、単なる「結果としての幸運」に過ぎません。

もし当時の私に「投資の知識」があれば、もっと別の、冷静な逃げ道を選んでいたはずです。

まとめ:知識がないからこそ、動機が純粋だった

この経験は、私に一つの教訓を残しました。

「人は、追い詰められた時にこそ、最も大胆で、かつ最も危ういお金の使い方をする」

ということです。

今の私が進めている「200万円の投資実験」は、当時の「17万円のローン」とは対極にあります。

今は「切実な痛み」ではなく「冷静なデータ」に基づいて動こうとしています。

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2. 【心理的背景の深掘り】判断を狂わせた「メンタル」の記録

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  • [P10-1] 投資が怖いのは「損失回避バイアス」のせい?|行動経済学研究職が語る心理「今」を優先してしまう脳の癖をどうコントロールするか。意思決定の仕組みを整理しました(準備中)。

重要:読者への免責事項】

※本記事は20年以上前の個人的な経験を振り返った記録です。

当時は現在(2026年)のような不動産価格の高騰や低金利環境とは全く異なる市場状況でした。

あくまで「当時の私がどう考え、どう動いたか」という心理的なプロセスを整理したものであり、現在の市場における不動産購入を推奨・肯定するものではありません。

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