「あの時、私は判断を止めてしまった」——退職金200万円の失敗から学んだ投資の恐怖と心理学

著者情報
執筆者:金子裕二(現役大学教員・カウンセラー)
25年以上の教育・研究実績(論文60本超)に基づき、
客観的な視点で執筆しています。

前回の記事では、人間が利益よりも損失を重く受け止める「損失回避」のメカニズムについてお話ししました。

今回は、私がなぜこれほどまでに「投資における心理」を重視するようになったのか、その原点にある苦い経験を共有したいと思います。

これは、理論ではなく、私の身に起きた「現実」の記録です。

最初の挑戦と、忍び寄る「すり寄る手」

私が初めて投資の世界に足を踏み入れたのは、30歳の時でした。

当時の私は、心身の不調から休職を経て、結果的に退職という道を選びました。手元に残ったのは、これからの生活を支えるためのわずかな退職金、200万円。

そんな時、不思議なことが起こります。なぜか証券会社の営業マンが私に連絡を取って来たのです。

紹介された金融商品はトウモロコシの先物取引。

勧められるままに、私はその200万円を投資に回しました。当時無職であったこと、退職の心細さから、経済的な余裕は必要だと焦っていたのだと思います。

そして先物取引の上昇基調のチャートは、自分にとって救いの手だと勘違いしたのだと思います。

証券会社は私の資産形成をしてくれると思っていました。しかし、証券会社の狙いは「手数料」だったのでしょう。

しかし、当時の私は、将来への不安を消してくれる「正解」を彼らが持っていると信じてしまったのです。

そして、なぜか。退職金が入ると、銀行や証券会社からの連絡が頻繁に来るようになるのです。退職後は精神的に不安定なことも多く、カモられる存在になるのではないか。当時を振り返ってそう思います。

ドーパミンの罠と、突然の暴落

暗い部屋で、暴落した株価チャートを前に頭を抱えて絶望する男性の後ろ姿。デスクには散乱した書類や請求書があり、投資の失敗による大きな損失と精神的な衝撃を表現している。

運用開始から数ヶ月、画面上の数字は順調に増えていきました。

利益が出始めると、脳内では快楽物質であるドーパミンが大量に放出されます。

「もっと増やせるのではないか」「今のうちに資金を投入すべきだ」という高揚感が、冷静な判断力を奪っていきます。

しかし、平穏は長く続きませんでした。半年後、市場は突然の暴落に見舞われます。

「追証」という冷徹な現実

昨日までの利益は一瞬で消え、突きつけられたのは「追証(追加保証金)」という通告でした。

私はさらに30万円を支払い、最終的にすべてのポジションを決済しました。

証券マンは淡々と渡したお札を数え、特に「申し訳ない」という表情も見せずに去っていきました。

残ったのは、230万円の損失と、多額の手数料の支払い。そして、形容しがたい深い絶望感でした。

「投資とは、これほどまでに恐ろしいものだったのか」

一度大きな失敗を経験すると、人は防衛本能から「判断すること自体」を止めてしまいます。

私はその後、長い間、投資という言葉を聞くだけで思考がフリーズする日々を過ごしました。

損失回避の影で、唯一正しかったこと

心理学の視点で当時を振り返ると、私はまさに「損失回避」の激流に飲み込まれていました。

損を取り戻そうとしてさらにリスクを取り、パニックの中で判断を下す。

しかし、一つだけ、当時の自分を肯定できることがあります。それは「あのタイミングで撤退したこと」です。

資金の大部分を失いましたが、もしあのまま意地になって市場にしがみついていたら、生活そのものが破綻していたかもしれません。

失ったものにいつまでも執着し、取り戻そうとする心理。これは行動経済学で説明しなくとも、生活実感としてご理解いただけると思います。

結び:不安を煽る情報の外側へ

困っている時にだけすり寄ってくる組織や、高揚感で目を眩ませる市場の動き。

それらに対抗できるのは、気合や運ではなく、「自分の心が今、どう動いているか」を客観的に捉える視点だけです。

私のこの手痛い失敗が、今、お金の判断に迷っている皆さんの「防波堤」になれば幸いです。

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【重要:読者への免責事項】

※本記事は20年以上前の個人的な経験を振り返った記録です。

当時は現在(2026年)のような不動産価格の高騰や低金利環境とは全く異なる市場状況でした。

あくまで「当時の私がどう考え、どう動いたか」という心理的なプロセスを整理したものであり、現在の市場における不動産購入を推奨・肯定するものではありません。

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