「手法さえ学べば、感情に左右されずに勝てるはずだ」
前回の失敗を経て、私はそう考えるようになりました。
次に私が手を出したのは、感情を排除するための「ロジック」です。
しかし、そこにはシミュレーションの数字だけでは計り知れない、精神的な「摩耗」が待ち受けていました。
「波乗りトレード」との出会い
私が門を叩いたのは、ある投資セミナーでした。
参加費は約20万円。決して安くはありませんが、当時の私には「一生モノのスキルが手に入るなら、払えない額ではない」と思える金額でした。
そこで提唱されていたのは、「波乗りトレード」という手法です。 具体的には、資金を5分割し、信用取引を活用して「個別株の買い」と「空売り」を組み合わせるというものでした。
株取引は、値上がりしないと利益にならないと思いこんでいた私は、ある種の衝撃を受けました。
株は値下がりしても利益になるんだ・・・と。
空売りは「先に売って、後で返す」仕組み

ふつうの買い物は「安く買って、高く売る」ことで利益を出しますが、空売りはその逆をします。
ステップ1:借りて、すぐに売る(1000円)
あなたが、友達(証券会社)から「今、大人気のゲームソフト」を1本借りたとします。 あなたは、そのソフトを自分で遊ぶのではなく、すぐに近所のショップへ行って1000円で売ってしまいました。
- この時点で、あなたの手元には現金1000円があります。
- でも、友達には「あとでソフトを現物で返すね」という約束があります。
ステップ2:値下がりを待つ(800円)
数日後、そのゲームの人気が落ちて、どこのお店でも800円で買えるようになりました。
ステップ3:安く買い戻して、返す(200円の得!)
あなたは、手元にある1000円のうち、800円を使ってショップでそのソフトを買い直します。
- 買ってきたソフトを友達に返します。これで「約束」は果たされました。
- 手元を見てください。最初に売った1000円から、買い直した800円を引いた200円が、あなたのポケットに残っています。
これが、「1000円で空売りして、800円になったら200円儲かる」の正体です。
100万空売りを仕込んで、80万まで下がった。その場合20万円の利益が出ることになります。
逆に損をするのはどんなとき?
もし、ソフトの人気がさらに上がって、お店で1200円出さないと買えなくなってしまったら……。
あなたは友達にソフトを返さなければいけないので、泣く泣く自分の貯金を200円足して1200円で買い戻すことになります。これが空売りで「損をする(マイナス)」パターンです。
この「買い」と「売る」のポジションを両方持つことで、市場がどちらに動いても大きな損を出さない、いわゆるローリスク・ローリターンの「ヘッジ」を効かせた手法に、当時の私は強い魅力を感じました。
株は値上がりする時はゆっくりだが、暴落の速度は速いと学んでいました。
ところが、ここ数年、海外の投資家がやみくもに日本株を買い漁るため、値上がりの速度が一気に加速することもまれではないそうです。
後に、現在の相場では、空売りも大きな損失になるということを知りました。
そして私はある誤算に気づくことになります。
完璧だったシミュレーションの誤算
まずは過去の株価データを使ったシミュレーションから始めました。 最初は、驚くほど順調でした。計算上は月に10万円単位の利益が淡々と積み上がっていくのです。
「これならいける」
そう確信したのも束の間、シミュレーションの期間を長期に広げていくと、風向きが変わりました。
相場の激しいうねりに飲み込まれ、両方のポジションが裏目に出る局面が増えていったのです。
ここで驚いたのは、「お金を投じていないシミュレーションですら、損失が出始めると精神的に消耗する」という事実でした。
画面上の架空の損失が増えるたびに、私の気力は削られ、日常生活にも暗い影を落とし始めました。
そして決定的な事件が起こったのです。
「プロ」の敗北という衝撃的な事故
そんな疑念を抱えながら参加していたある日、決定的な事件が起こりました。
セミナー講師が、実際の直近の値動きをもとに取引のシミュレーションを見せる、会員向けのライブ動画でのことです。
プロであるはずの講師が、相場の読みを外し、多額の損失を出してしまったのです。
チャット欄には、期待を裏切られた会員からの「ひどいお叱り」の言葉が溢れました。
その光景を見て、私は冷や水を浴びせられたような感覚になりました。
「手法を教えるプロですら、相場に飲み込まれればこれほどの損失を出し、そしてこれほどまでに叩かれるのか」
それは、手法という「正解」を求めていた私にとって、残酷なまでの現実解でした。
結び:投資の「正解」は手法の外にある
私はその日を境に、セミナーへの参加を中止しました。
毎月の会費は1,500円程度と安価で、最新の動画が送られて来るのですが、1,500円払って精神が消耗するというのは本末転倒です。
シミュレーションの数字は、私たちの「心」まで計算に入れてはくれません。
プロでも失敗する世界で、私たち個人が守るべきは、手法を極めることではなく、「自分の心が耐えられる範囲」を正確に知ることではないか。
この経験は、後に私が行き着く「削らない投資」という考え方の、大きな転換点となりました。
【次の記事】実は、仮想トレードで精神を消耗した背景には、ある事情がありました。
【関連リンク】
前回の記事で解説した『損失回避』の具体例として、私の実体験を赤裸々につづった記事がこちら
👉 投資が怖くなった原体験|失敗から判断を止めていた時間
「あの時、私は判断を止めてしまった」——退職金200万円の失敗から学んだ投資の恐怖と心理学(前の記事)
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【重要:読者への免責事項】
※本記事は20年以上前の個人的な経験を振り返った記録です。
当時は現在(2026年)のような不動産価格の高騰や低金利環境とは全く異なる市場状況でした。
あくまで「当時の私がどう考え、どう動いたか」という心理的なプロセスを整理したものであり、現在の市場における不動産購入を推奨・肯定するものではありません。



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